センチメンタルグラフティ・二次創作小説
全国12都市再び・第1話「北海道までヒッチハイク」



『あなたにあいたい』

そう書かれた差出人不明の手紙が少年の元に届く。
少年は東京に住む高校3年生。小学4年生から中学3年生までの6年間に、
10回以上全国を転校して周るという稀有の経験を有する。当然その間に知り合った人の数は、
転校した回数以上に多い。少年はその中でも特に思い出深い12人の少女の顔を思い浮かべる。
北は北海道から南は九州まで、顔も性格もそして誕生日まで千差万別。
少年は少女達の名前はしっかり覚えているものの、なぜか他の細かい思い出は霧がかかったように
ボンヤリとしか思い出せない。

『とにかく逢いに行けば思い出すさ』

少年は差出人不明の手紙を怪しんだり、それ以前になぜ自分の住所を知っているのか、
などという常識的な発想よりも全国の少女達への懐かしい感情を優先させ、バイトで貯めた
12万の資金を元手に全国の懐かしい場所へ旅立つ決意を固めた。

『さいわい今は春休み。この期間のうちに12人全員に逢って来よう』

そう思うと行動は速い。さっそく家を出て最初の目的地、北海道札幌を目指す。
まず北から順に周るというわけだ。問題は交通手段だが……。
ここで普通なら飛行機、時間に余裕があれば鉄道という選択肢が現れるはずだが、
この男はなんとヒッチハイクというおよそ計画性からかけ離れた交通手段を選んでしまう。

『資金を温存するためさ』

少年に直接問いただせば、そう答えるのだろうか。

まず近くの国道へ出て、ヒッチハイクの合図を送る。
……が、全然乗せてくれる気配も無い。

『ここは根競べだ!』

合図を送ること数時間、ようやく札幌まで行くというトラックを捉えることができた。

「よう、札幌まで行くけど、どうだい、乗っていくかい?」

トラックの運転手はそう言い、少年を快く乗せてくれた。
それにしても東京から札幌までトラックを運転しなければならない運転手に少し同情し、
そのことを言うと運転手は、

「こう見えても俺は北は北海道から南は九州まで、つまり全国を股にかけてトラックを運転
してるんだ。この道一筋30年さ」

と答えた。なんとも過酷な勤務実態である。トラック運転手の過労が問題視されるのが分かる
気がする。

「兄ちゃん、何でまた札幌まで行くんだい?」

少年は事情を話した。差出人不明の手紙、その手紙に『あなたにあいたい』と
書かれていたこと。そして全国に散らばる12人の思い出の少女たち…。

「…兄ちゃん、それってその12人に直接電話で聞けばすむ事なんじゃないか?」

「全員の電話番号を知っているわけではないので…。それに手紙の差出人よりも
本当は彼女達に逢いにいくのが目的みたいなものなんです。彼女達とは色々思い出がありますから…」

「そうか…まあ若いうちは様々な経験を積んでおくのはいいことだがな」


─2日後

「やっ、やっと着いたぁ…」

少年は思わずそうつぶやいた。

「ははっ、ちょっと兄ちゃんにはきつかったかな。なにせ丸二日走りっぱなしだったからな」

少年は顔面蒼白、半死半生といった状態である。無理も無い。丸二日、ほとんど休むことなく
走り続ければ、気がまいってしまう。よくエコノミークラス症候群にならなかったものだ。

「…ありがとうございました」
「気つけてな、頑張れよ」

走り去っていくトラックを尻目に、さっそく思い出の少女を探す。名は沢渡ほのか。
しかし足元がふらつく。思いのほか体力を消耗している。

『しかたない、今夜は夜明かしか』

そう思うやさっそく大通り公園のベンチで横になる。

翌朝、くしゃみとともに目を覚ます。少年はまだ3月だということをうっかり忘れていたようだ。
3月の札幌の平均気温は一桁。本来なら野宿は命にかかわる。

『さっそくほのかを探しに行くか…。たしか親父さんが北大の教授だったな』

北大に到着した少年は広いキャンパスの中、ほのかの父親のいる獣医学部目指して歩き続ける。
歩きながらついさっき起こった出来事について、考え事をしている。

『さっきの女の子、なんか引っかかるんだよなぁ』

少年はしばらく前に街中でナンパされている少女を助けたのだが、礼を言うなりすぐに立ち去ってしまったのだ。

『あの女の子、ほのかじゃないかなぁ…。でもそんなに簡単に逢えるとも思えないし…』

そう考えているうちに、獣医学部の厩舎にたどり着く。

「あの、あなたは…」
「えっ…?」

さっきの女の子が厩舎にいる。少年を見て驚いているようだ。

「…さっきはありがとう。でもなぜここに。北大の学生なんですか?」
「いや、人を探してるんだ。沢渡教授って言うんだけど…」
「沢渡教授は私の父ですが…」
「じゃあ君がほのかかい?忘れちゃったかな?僕だよ、小学生の時一緒のクラスだった…」

そう言うと、女の子はかなり驚いているようだった。約5年ぶりなので無理もないが。

「いつ札幌に来ていたの?」
「うん、昨日着いたばかりさ。それにしてもやっぱり北海道は寒いね、うっかり野宿なんてできないや」
「野宿って……泊まるお金もないの?」
「そんなことないさ、ただ今後のことも考えて資金を節約しているのさ」
「資金って幾らくらい持ってきているの?足りないのなら少しくらい貸してもいいけど…」
「12万だけど、まぁ大丈夫だろう」
「なんだ、12万もあれば十分東京まで帰れるじゃない…」
「う、うん、東京までならね…」
「?…東京までならって、他にも行くところがあるの?」
「い、いや、別に…」
「……なーんか怪しいなぁ」

『うーむ、あいかわらず勘が鋭いなぁ、ほのかは…』

「ま、まあいいじゃないか、せっかく久しぶりに逢ったんだし…」
「それもそうね…、あっそうそう、私の連絡先一応渡しておくね」
「ありがとう、また暇を見て逢いに来るよ!」
「そう、楽しみに待ってるからね」

そう言うとほのかは厩舎の中へ行ってしまった。

『…やれやれ、あと11人か…。でもやっぱり懐かしいなぁ…、誰が手紙を出したかよりも
今の彼女達と逢えることのほうが…』

そう思いながら少年は札幌駅へ向かった。次の目的地は青森だが、
さすがに今度はヒッチハイクではなく、夜行列車で行くことに決めたようだ。

まだまだ先は長い。北の大地の空は夕焼けを照らし始めていた。

つづく


あとがき

言ってみれば、もう一つのセンチ1と言うところでしょうか。私はもともとifやパラレルストーリーが好きなので、
基本的な設定以外はなるべく自由にセンチ1の主人公に旅をさせたい。
普通センチ1なら最初に訪れる都市は距離的に横浜が妥当でしょうが、あえて北海道から周らせてみることにしました。
北から順に巡って行くので、当然次の目的地は青森ということになります。そして、12都市全て周って終了ではなく、
その後もセンチ1の主人公が高校卒業するまでは続けたいと思います。つまりかなり長編になるでしょうし、
あるいは途中で話が破綻するかもしれませんが(ぉ、なんとか書き続けていこうと思います。
あと、センチシリーズはゲーム、アニメを問わずかなり気に入っている脇役キャラが数名おりますので、
その者たちがメインのSSもそのうち書いていこうと考えています。すでにトラック運転手が登場していますが、
これから何度も登場するでしょう。ヒッチハイクには欠かせないキャラですから(笑。



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