センチメンタルグラフティ・二次創作小説
全国12都市再び・第2話「第2の故郷・青森へ」



「青森かぁ… 懐かしい、8年ぶりくらいかな」

3月25日早朝、少年は夜行列車からホームに降り立つなりそう呟いた。
小学校に入学する前後に東京から引っ越して以来、4年近く青森に住み続けた少年にとって
青森は特に思い出深い。

『妙子は元気にしているだろうか…、まさか僕の顔忘れていたらどうしようか』

などと苦笑しつつ、青森駅の改札を出る。
しかし時間はまだ午前6時前。こんな朝早くに安達家へお邪魔しても迷惑だろうと考え、
駅周辺をぶらつく。

『あれが青森のベイブリッジか…、僕が引っ越す前はまだなかったんだよな。せっかくだから渡ってみるか…』

そう思いつつベイブリッジへ足を運ぶ。
青森のベイブリッジは平成4年に完成し、全長1993mにも及ぶ斜張橋で青森駅を跨ぐ形で建っている。
その下に並行するようにラブリッジという歩行者専用の橋が架かっている。
その近くの青森港にはかつての青函連絡船「八甲田丸」が繋がれている。
ベイブリッジを渡りながら、少年は青森市街を見渡し感慨にふける。

『やっぱり8年も経つと、街の様子もだいぶ様変わりするものだなぁ』

そんな中、正三角形の建物が目に入る。

『あれはアスパムだな。引っ越す3年前に建てられたのを覚えている。
妙子と弟の純くんと一緒に見学したこともあったっけ』

アスパムは青森県の産業や観光物産などに関する博物館である。

『妙子ったら僕の服の袖を引っ張って、一番はしゃいでいたなぁ…。
でも同い年なのに普段は僕に対してお姉さんぶってみたり…』

実際小学生の時期に4年近くも一緒に暮らしていると、家族同然に感じるのも無理はない。
少年一家は安達家の二階に間借りさせてもらっていたので、
その縁で青森から引っ越した後も年賀状でのやりとりは続いていた。
つまり、少年の所在を明確に知っていたのは妙子のみとなる。

『やっぱりあの手紙を出したのは妙子なのかな…』

考え込んでいるうちに午前10時を過ぎていた。

『そろそろ行ってみるか…、たしか妙子の家は新町の…… あった、あれだ!間違いない。
8年ぶりだけどハッキリと覚えているよ。全然変わってないなぁ…、なんだか少しどきどきしてきたよ…』

見覚えのある建物、第二の実家。
妙子の家は『安達酒店』でもあり、すでに営業中であった。

「ふぅ〜、これでおしまいっと。よし次は…、あら…お客さん? いらっしゃい!」
「…!ひょっとして、妙子……妙子かい!?」
「…まさか…あなたは……」
「そうだよ、昔一緒に住んでいた…」

そう言い終わるところで妙子が勢いよく抱きついてきた。目が涙ぐんでいる。

「おかえんなさい…、逢いたかったんだから!」
「…た、ただいま」
「もう!毎年年賀状だけじゃ寂しくなるじゃない!」
「うん…、青森は遠いし…でもほら、こうしてまた逢えたんだし…」
「そ、そうね…、ごめんね…いきなり抱きついちゃって」
「いや、いいんだよ…、それにしても懐かしいね。この家も妙子もあまり変わってなくて安心したよ」
「それはお互い様でしょ。私もあなたを見て一目で分かったんだから!」

そう言い合うと、二人とも吹きだすように笑いだした。

「立ち話もなんだから、上がっていってよ」
「え、でも…」
「遠慮なんかしないで、ここはあなたの実家でもあったんだから…」
「それじゃあ、お言葉に甘えて」

早速妙子とともに二階へ上がる。何もかも懐かしい、ここへ戻ってきて良かった。そう少年は感じ始めている。
やがて妙子の案内である一室へ通された。

「ねぇ…覚えてる?この部屋」
「うん、よく覚えているよ!なんたって僕の部屋だったんだからさ」
「そう、あなたが引っ越した後も、ちゃんと掃除は欠かさなかったんだからね」
「へぇ〜、なんだかうれしいよ…」
「私だって…。でもびっくりしたのは、小学4年生から中学3年生までの間、あなたの住所が毎年違っていたことよ」
「…うん。親の都合で全国のあちこちに引越しを繰り返していたんだ。
短い時はほんの一月くらいしかいなかった所もあってさ…」
「そうなんだ…、いろいろと大変だったんだね……」
「でも高校に入学してからはずっと東京で暮らしているけどね」
「そういえば、ここに引っ越してくる前も東京に住んでいたんだよね?」
「そうなんだよ。まぁ東京が一番住んでいる期間が長いといっても、
やっぱりそれ以外の場所ではこの青森が一番親しみ深いかな」

懐かしさのあまり、妙子も少年も積もる話で盛り上がっていた。

「それでこのあとどうするの?よかったら家に泊まっていっても…」
「いや、そこまでは…」
「じゃあ、せめてご飯食べていってよ。腕によりをかけて作るから!」
「うん、それじゃあご馳走になろうかな」
「そうこなくちゃね」

そう言うと妙子は早速エプロンをして、台所へ向かった。
そのうち妙子の弟の純が帰ってきた。

「あれ〜、姉ちゃんお客さん?」
「あっ、純お帰り!あんたも覚えているでしょ?昔家で一緒に住んでいた…」
「やぁ、純くん久しぶりだね」
「あの兄ちゃん?僕はまだ小学校に入る前だったけど、よく覚えているよ!」
「ふふ…懐かしいでしょ。純とだって実の兄弟みたいなものだったんだから」

なにやら台所からいい匂いがしてくる。時折エプロンを着けた妙子の姿が見え隠れする。

『なんというか、安らぎとでもいうのかな。癒されるような感じだ…。東京から札幌まで丸二日ぶっ通しで
ヒッチハイクのトラックの中にいた時とはまるで逆のような…』

「はい!おまたせしました〜。お口に合うかわからないけど…」
「それじゃあ、いただきます」
少年はおいしそうに食べ始めた。
ご飯にみそ汁、焼き魚と昼飯としては充分な内容、家庭的な料理だった。

「ほら純!肘ついて食べないの!ちゃんと行儀よく食べなさい!」
妙子が純を叱る。そんな光景も昔と変わらずだった。

「妙子、相変わらずだね」
「だって、純が…」
妙子がそう言いかけると、純がすかさず茶々を入れた。

「兄ちゃんと姉ちゃん、新婚さんみたいだね」

『ぶっ…』
少年は思わずお茶を噴出しかけた。

「なっ、何言ってんのよ、純!」
「だって姉ちゃんがこんなに嬉しそうにしているの初めて見るんだもん」
「もう、大人をからかわないの!」

そう叱る妙子だったが、どこか嬉しそうだった。


「ごちそうさま、特にみそ汁がおいしかったよ!」
「ふふ…、私みそ汁には自信があるんだ。そうだ!この際晩ご飯も食べていったら?」
そう妙子が言うと、少年の言葉で遮られた。

「いや、実はそうのんびりしてもいられないんだ」
「えっ、どういうこと?」

ここで少年は妙子に事情を説明した。今まで引越しを繰り返してきた全国の12都市を巡る旅のことを…。

「そうだったんだ…過去を懐かしみながら旅するなんて、なんだか「センチメンタルジャーニー」(傷心旅行)みたいだね。
まだ17歳なのに…」
「でも僕の場合、実際に全国の12都市を引っ越してきた実績があるからなぁ…。
でも約束するよ。12都市を巡った後にはかならずここに帰ってくるよ」

「うん、楽しみに待ってる。体に気をつけてね…、夜更かしなんかしちゃだめだぞ!」
「気をつけるよ、それじゃあそろそろ電車の時間があるから…」
「次はどこの町に行くの?」
「今のところ北から順に巡っているから、次は仙台かな」
「そうなんだ…、じゃあがんばってね」
「…うん」

そう言うと少年は安達家を後にした。駅に向かっている途中、少年は思い出したように
『ああ!そういえば妙子に手紙のこと聞くの忘れてた…。でもまた今度でもいいかな』

そう思い直して青森駅に向かった。残り10都市。はたして少年は春休み中に全ての都市を巡れるのか。
春休み終了の日まであと10日。あと10日しかないのだ!

つづく


あとがき

思い出したようにSSの続きを書き始めました。第2話、安達妙子編です。
内容的にはセンチ1の再会イベントとほぼ同じですが、到着早々安達家へ向かうのではなく、
ベイブリッジ等を見物させてみました。
センチ1の時期が97年として、主人公が青森から引越したのはその8年前つまり89年当時、
青森のベイブリッジは完成していなかったので、主人公が8年ぶりに青森に現れた場合、
まず最初にベイブリッジに足を運んでみてもいいかなと。
ちなみに妙子とだけは毎年年賀状のやりとりがあったというのは私のオリジナル設定(妄想)です(笑。
にしても、あと10日で10都市巡るのは酷ですね。(^^;)



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