センチメンタルグラフティ2・二次創作小説
綾崎老の思惑「エージェント中島」



「御前、お召しにより参上いたしました」
「うむ、入れ」

そう言われて綾崎老こと、綾崎誠之介(77)の座敷へ入ったのは、
綾崎家が誇るエージェント・中島である。
中島は本名ではない。表向き綾崎家の運転手を称しているものの、実際は
綾先家当主直属の側近・エージェントであり、運転手はもとより雑用、護衛、
諜報その他何でもこなす者の称号、それが「中島」である。
初代中島は平安の昔、綾崎家の牛車の舎人(召使)をしていたそうな。

「して中島、例の者の情報は掴めたのか?」
「はっ、若菜お嬢様の身辺に現れる不審な男を探ったところ、どうやら例の者は
天河大学2年、光画部所属の椎名耕平と申すそうでございます」
「大学2年…?ということは若菜と同い年か…」
「いえ、この者は一浪しておりますので、お嬢様より一つ年上かと」
「ほう、しかし光画部とはなんのことだ?写生でもするのか?」
「それが…、光画部を名乗っているものの、その実態は写真部と変わらないそうでございます」
「…つまり、その椎名耕平とか申す小僧が自分の個人的趣味の理由でせっかく立ち直りかけている
若菜の身辺をうろついているというわけか…」

綾崎老は、2年前の出来事を思い返す。

─2年前

一人の男がこの世を去っていった。その男は小学生の一時期、若菜と親交があり
若菜にとってかけがえのない存在となっていった。
その後転校してしまうが3年前に再び若菜の前に現れ、その後約一年間その男が住む東京から
若菜の住む京都へ頻繁に往来し、互いに想いを遂げるかに見えたその矢先、その男は交通事故死してしまう。

「あれからもう2年になるのか…、早いものだな。わしもあの男とは何度か会い、その度に厳しいことを言ってきたが、
彼の真剣さと若菜の説得に心を動かされ、彼が死ぬ直前では若菜の将来を託すに足る人物かとまで考えていた」
「…そういえば中島も彼には何度か会ったことがあったな」
「…はい、彼は昔、初めて若菜お嬢様を心から楽しませ、本当に楽しそうな笑顔をお見せくださいました。
僭越ながら私も彼なら若菜お嬢様のことをお任せできるお人と考えておりました」
「うむ、その後若菜が東京へ出て看護学校へ通い、ゆくゆくは看護婦になると言い出したときはさすがにわしも反対はした。
だが、若菜の意思は固かった。若菜は彼の死を通じて人を助けることの尊さを痛感したのだろうな…」

「…話がそれたな。それで、椎名とかいうその小僧は結局何の目的で若菜の身辺をうろつくのか?」
「詳しいことは分かりませぬが、どうも学園祭に出展する写真を撮るのが目的のようです」
「なるほどな。しかし、今の若菜で本当の笑顔を撮るのは難しいだろうな……、じゃなくて!
そんな理由で若菜に近づく男をこのまま放置しているわけにもゆかん!引き続き調査を続行せよ」
「はっ」

─数日後

「御前、例の者に裏で糸を引く人物が存在することが判明いたしました!」
「なんだと!してその者の名は?」
「はっ、その者の名は椎名耕平の先輩にあたり、天河大学光画部部長・竹ノ内誠と申す者」
「むう…、そやつが黒幕か…。で、その男の特徴は?」
「色々調べましたところ、あくまで噂ではありますが、どうも男色の気があるとか……」

ここで綾崎老はあやうく絶句しそうになった。
深い悲しみを乗り越え、将来に向けて頑張っている孫娘の身辺にパパラッチまがいの男のみならず、
その男を背後から操る者が男色家とはどういうことであろうか。

「御前、お気を確かに!」
「あ、ああ…大丈夫だ。しかし…これは捨てては置けんな。わし自ら東京へ行かなければならない時かもしれん」
「東京ということは、宿所はどちらに?」
「鎌倉綾崎家が無難だな。あそこにも孫娘が3人おる。久々にあそこの孫達にも会ってみたいものだしな」
「わかりました。この中島、どこへでもお供いたします」
「うむ、では明日にでも鎌倉へ発つか。そういえば鎌倉の操は東京へ出てきた若菜のことを心配していたな。
今回の件では協力してもらうことになるかもしれん」
「操お嬢様がご協力していただけるなら百人力ですな。なにせ操お嬢様は……」
「うむ、パパラッチだろうが男色家だろうが無事ではすむまいて」

つづく


あとがき

なんか一部設定に私の妄想が入り込んでます。特に中島さんの設定が(笑。
センチ2では出番のなかった綾崎誠之介、つまり若菜の祖父で綾崎老のことですが、あえて登場させてみました。
もしもセンチ2で綾崎老やセンプレの操が登場したら椎名や竹ノ内は写真撮影どころじゃなかっただろうなぁ…と。
あと、綾崎誠之介という名前はアニメ版センチメンタルジャーニーから取りました。ゲームや小説では名前は出てこなかったので。



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