センチメンタルグラフティ・二次創作小説
「最初の旅立ち」



 『さっき、妙子泣いていたのかな…』
少年は、電車の中でそう考えていた。

青森から仙台に向けてひた走る電車。

青森から仙台へ引っ越すため、少年は両親とともに
その電車に乗車している。

クラスメイトやお世話になった人たち、特に大家さん一家。

幼なじみの安達 妙子。

少年の一家は、元々東京に住んでいたのだが、
仕事の都合で青森に越してきて、妙子の母親の好意で
家の二階に間借りさせてもらっていた。
ちょうど少年が小学校へ入学するころである。

それ以来少年と妙子は兄妹同然、四年間一つ屋根の下で暮らしてきた。

しかし、四年間慣れ親しんだ青森を離れ、仙台へ引っ越すことが
決まったのは、ほんの十日ほど前のことだった。
そのことを妙子に伝えてからというもの、妙子は急に無口になり、
何かをためらっているようであった。

少年もその雰囲気に押され、どこかよそよそしい。

引越し当日。出発が急に早まり、急遽引っ越すことになった。
妙子と最後の別れをすることもなく……。


『妙子が電車を追ってきてくれたってことは、僕の置手紙を読んでくれたのかな…』

少年はそう考えていた。
電車が発車してしばらく、カーブで減速する所で妙子が電車と平行に追いかけてきてくれた。
そのとき、少年も電車の最後尾に走り、一瞬だが妙子と目を合わす。

少年はそのときの妙子の表情が瞼に焼き付いている。
今まで見たことの無いような、悲しい表情。

そのとき妙子が何かを叫んでいたように思えるが、なにを叫んでいたのか少年にはよく分からなかった。

『妙子に一言謝りたかったな。ごめん、そして、いままでありがとうって』

そう思うと少年は自然と目の辺りが熱くなってしまう。

それを察してか、少年の父親が語りかける。

「父さんの仕事の都合で、これから数年は引越しが続くかもしれない。お前にはその度に
つらい想いをさせてしまうことになるかもしれないけど、我慢してくれ。お前が高校生に
なるころには、落ち着けると思うから…」

『仙台に引っ越した後も、またさらに別の場所へ引っ越すことになるのだろうか…』
そう思うと少しやりきれない気分になるが、しょうがない。

そうこう考えているうちに、少年に眠気が訪れる。今までの疲労が現れはじめてきたのだろう。

『さようなら、妙子……』

いつか妙子と再会できる日を願い、少年は妙子との思い出とともに眠りにつく。

END


あとがき

一番最初のSSということで、シリアス路線でいきました。やはり最初は少年時代の妙子との思い出から
始めるべきではないかと思いまして。短編ですが…。



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